これで世界を救いたまえ -TENET-【名古屋セントラルパーク店】
こんにちは。
鈴木(晴)です。
広小路通り店からセントラルパーク店へ移動になりました。
グローバルスタイルも繁忙期を迎え、ブログを更新する暇がなかったので久しぶりの投稿です。
一発目は好きな映画のスーツ紹介です。
紹介するのはクリストファー・ノーラン監督作品
「TENET」
『現在から未来に進む“時間のルール”から脱出する』というミッションを課せられた主人公が、第3次世界大戦に伴う人類滅亡の危機に立ち向かう姿を描くというストーリーです。
その中で今回注目するのはマイケル・ケイン演じるマイケル・クロスビー卿です。
©2020 Warner Bros. Ent.
物語の序盤、主人公「名も無き男」はTENETという組織から第三次世界大戦を止めるよう任務を依頼されます。
話が進み、時間を逆に進む銃弾の販売を行ったアンドレイ・セイターと接触するために英国諜報部から情報支援を受けます。
そこで登場するのが、今回のブログの主役「マイケル・クロズビー卿」です。
上流階級にいる彼は、主人公が着ているスーツがブルックスブラザーズのスーツだと見抜き、セイターに会うには相応しくないと苦言を呈しました。
ブルックスブラザーズはパーソナルオーダー¥121,000から注文できます。
我々からすると十分高価に思えますが、貴族が連なる上流階級が着るには不相応だという指摘です。
(ブルックスブラザーズのスーツの質が悪いわけではありません)
イギリスは我々が思う以上に階級社会です。
使う言葉、買い物をする場所、服装等が全て階級によって異なります。
そしてアンドレイ・セイターは武器売買でイギリスの上流階級へ成り上がった商人です。
上流階級の人間が、労働あるいは中流階級をターゲットとしたブルックスブラザーズのスーツを着た人間と会合する。
それは、未だに下位に頼らなければいけないという商人としての疵瑕と捉えられて事業に悪影響を及ぼす可能性がある為、会ってすら貰えないと忠告したのです。
そういった界隈の事情がのぞき見えるシーンですね。
さて、話を戻します。
グロズビー卿の着ているスーツは、一見黒のように見えますが光が当たるとネイビーのように鈍く輝きます。
濃紺、ダークネイビーに近い色でしょう。
グローバルスタイルにおいてある生地の中だとロロピアーナやEトーマスが近いですが、本人の発言から生粋の英国人であることが予想されます。
いくら品質がいいとはいえ、イタリア製の布を纏うとは思えません。
英国製の生地でここまできれいなつやが出せるのは思いつく限りでは「Holland & Sherry」あたりがまず出てきます。
衿はノッチドラペルでやや広め、Vゾーンは深いのでフロントデザインは2つ釦や1つ釦かもしれません。
2つ釦となるとやや現代的ですね。
しかし、袖山がしっかりとボリュームのあるビルドアップショルダーになっていて、典型的なブリティッシュスーツになっています。
袖釦は4つで重ねず通常通り並べ釦でした。
本切羽かどうかは読み取れませんでした。
続いてシャツです。
白無地でツイルと呼ばれる織が入っています。ステッチは衿部分に関しては通常と同じ5mm程度。
衿はワイドカラー、前立てはもちろん表前立てです。
袖はダブルカフスのラウンドで、袖とカフスの接合部はギャザーで仕上げられているようにも見えます。
通常、シャツ袖はタックと呼ばれるプリーツで袖筒とカフスのサイズを調整して接合されますが、シャツの王様「ターンブル&アッサー」などはここをイセ込みによるギャザーで仕上げる事があります。
また、カフリンクスを通すホール(穴)も通常カフスの中央にありますが、袖側に少しずれています。
これもターンブル&アッサーのシャツの特徴です。
シャツ衿の全景が見えない為断定はできませんが、ターンブル&アッサーである可能性が高いです。
そしてサイズですが、袖はかなり長くとってありシャツ本来のサイズ感です。
釦(カフリンクス)を外した状態で手の甲が完全に隠れるくらいの長さです。
カフス回りをぴったりで作る為、シャツは手首の位置から落ちて行きません。
現代では腕時計の為に片腕だけ少し広げる事が多く、その場合はシャツが落ちるのを受け止める事が出来ない為カフス回りを大きくとって短めにするのが流行っているようです。
以前のブログでも軽く触れましたが、ジャケットを着た状態で両腕を前に出すと袖の位置が上がります。
貴族たちは腕とはいえ肌を露出させるのを極端に嫌いました。現代でいう裸になるのと同じくらいの感覚でした。
そのため、どんな体制になっても袖位置が動かない様に長くとるのが元来のシャツのサイズになります。
胴回りに関してはほとんど見えない為想像になりますが、しっかりとゆとりのあるクラシックサイズで作られていると思います。
ネクタイですが、黄色の地に大きめの小紋柄です。
ネイビーのスーツに黄色のネクタイというのは相性がとても良いです。
色相環という色のバランスを示す図があるのですが、ネイビーとイエローは補色の関係(オストワルト色相環の場合)にあります。
柄自体もスーツの色を拾っていて、なおかつチーフもシャンパンゴールドと見える色数を制限していて非常に美しくまとまっています。
結び方はもちろんウィンザーノット。
素晴らしいです。
さて、映画内でわかるのはここまです。
ここからはテーブルに隠れていて見えない為、私がこうあってほしいという妄想です。
腰ポケットはあえて並行でチェンジポケットあり。
ベントは勿論サイドベンツ。
パンツは1タックのインプリーツでベルトレス。
パンツの長さは1クッションで、裾口はパンツのシルエットがストレートならばダブル。
ややテーパード気味ならばシングル。
典型的なイギリスのクラシックスタイル。
定番ながら流行に左右されず、廃れる事の無い不変のスタイルです。
今後クラシックなデザインで作ってみたいという方はぜひ参考までに。
以上、私の妄想終わりです。
まとめます。
スーツ
・ほぼ黒に近い濃紺の無地で艶が強め
・シングル1つ釦(or 2つ釦)
・ノッチドラペル
・袖は4つ釦で重ねず
・切羽は確認できなかったため、どちらにするかは好み
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐以下妄想
・腰ポケットは並行でチェンジポケットあり
・パンツは1タックのインプリーツ
・ベルトレス
・丈は1クッション
・パンツのシルエットがストレートならば裾口ダブル。ややテーパード気味ならばシングル。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐妄想終了
シャツ
・白無地(ツイル)
・ステッチ5mm
・衿はワイドスプレッドカラー
・袖はダブルカフスのラウンド
・表前立て
・サイズはクラシック目のゆったり
・袖丈はカフリンクスを外した場合手の甲が完全に隠れるくらい(腕時計をしない場合)
・カフスサイズはピッタリ目(腕時計をしない場合)
ネクタイ
・黄色の地に紺色の小紋柄
・結び方はウィンザーノット
チーフ
・シルク製
・色はシャンパンゴールド(黄色系)
・折り方はラフに崩したスリーピークス
デザインは完全に真似せずとも、色の組み合わせだけであればかなりやりやすいと思うのでぜひ。
ちなみに、クロズビー卿は主人公を一目見ただけでブルックスブラザーズのスーツだと見抜いています。
私も街中でグローバルスタイルのスーツを着ている人を見かけてわかることはありますが、それはあくまで自社製品だからです。
諜報部とはいえ、海外のスーツブランドを一瞥しただけで見抜けるものでしょうか。
クロズビー卿がブランドを見抜けた理由は
1.ブルックスブラザーズのスーツだとわかるあからさまなデザインの特徴がある。
2.主人公が座る直前にフロント釦を外す。その際にテーラータグを盗み見た。
3.主人公が事前にブルックスブラザーズで買い物をしたという情報を事前につかんでいた。
このどれかだと思いますが、1だった場合はクロズビー卿の博識が素晴らしいというほかありません。
個人的には3であってほしいです。
世界滅亡の危機とはいえ、それを乗り越えればまた他国の工作員同士。
クロズビー卿はこの戦いの先を見据えて「お前の行動は英国諜報部に筒抜け」だという牽制をした。
私はパンジャンドラムやミンスミート作戦を立案・実行した強かで紅茶をキメたイギリスが大好きなのでこうであってほしいと願っています。
名古屋セントラルパーク店 鈴木(晴)